20代の資産形成を考え始めると、かなりの確率でぶつかる悩みがあります。「奨学金が残っているのに、NISAなどで投資を始めていいの?」「それとも先に繰り上げ返還した方がいいの?」というものです。
どちらの考え方にも一理あるので、ネットを見ても意見がバラバラで、余計に迷いやすいテーマです。この記事では、日本学生支援機構(JASSO)の公式情報などを確認したうえで、「自分の奨学金の条件を知る→繰り上げ返還を利回りとして考える→優先順位を決める」という順番で、判断の材料を整理しました。情報は2026年10月17日時点のものです。
結論を先に書くと、一律の正解はなく、奨学金の種類と利率、手元の現金の厚みで答えが変わります。逆に言えば、この2つさえ確認できれば、自分なりの答えは出せます。
まず確認する:自分の奨学金の「条件」
判断の前に、そもそも自分が何をどんな条件で借りているのかを把握しておきましょう。意外と「毎月いくら引かれているか」しか知らない人が多いです。
第一種と第二種で、利息の有無が違う
JASSOの貸与型奨学金には、大きく分けて2種類あります。
- 第一種奨学金:無利子
- 第二種奨学金:有利子(在学中と返還期限猶予中は無利息)
第一種は利息がつかないので、早く返しても利息の節約にはなりません。ここが、考え方の大きな分かれ目になります。
第二種は「利率固定方式」か「利率見直し方式」か
第二種には、貸与が終わる時に選ぶ2つの利率方式があります。
- 利率固定方式:貸与終了時に決まった利率が、返還が終わるまで続く。見直し方式より高めに設定される
- 利率見直し方式:貸与終了時に決まった利率を、おおむね5年ごとに見直す。市場金利に応じて上下し、固定方式より低めに設定される
どちらの方式でも、利率には年3%の上限があります(基本月額の部分)。
自分の情報はどこで見られる?
借入残高、利率、返還終了予定の年月は、JASSOの「スカラネット・パーソナル」にログインすると確認できます。返還誓約書の控えや、返還の通知書類にも書いてあります。「残高」と「利率」と「方式」の3つをメモしておくところから始めましょう。
最近の奨学金の利率は?
では、実際の利率はどのくらいなのでしょうか。2026年3月に貸与を終了した人に適用された第二種奨学金(基本月額)の利率は、次のとおりです。
| 方式 | 利率(年) |
|---|---|
| 利率固定方式 | 2.423% |
| 利率見直し方式 | 1.600% |
増額貸与の部分は、固定方式が2.623%、見直し方式が1.800%でした。報道によると、固定方式の利率は、2022年3月の貸与終了者の0.369%から約6倍に上がっています。
ここで大事なのは、利率は貸与が終わった時期で決まるということです。今の20代でも、数年前に貸与を終えた人は、もっと低い利率で借りている可能性があります。ニュースで見た「奨学金の金利が上がった」という数字が、そのまま自分に当てはまるわけではありません。必ず自分の利率を確認してください。
繰り上げ返還は「確実な利回り」と同じ
ここからが本題です。第二種奨学金を繰り上げ返還すると、その分の元本が減って、将来払う利息が減ります。これは見方を変えると、借りている利率と同じ利回りが、確実に得られるのと同じ効果があります。
利率ごとの、年間の利息の目安
残高が300万円の場合の、1年あたりの利息のイメージです(概算で、日割り計算や残高の減少は考えていません)。
| 利率 | 年間の利息の目安 |
|---|---|
| 0%(第一種など) | 0円 |
| 1.0% | 約3万円 |
| 1.6% | 約4.8万円 |
| 2.423% | 約7.3万円 |
| 3.0% | 約9万円 |
たとえば利率2.423%で、手元の36万円を繰り上げ返還に回した場合、年間の利息は約8,700円減る計算です。1回きりの金額は小さく見えますが、毎年続くコストが減るので、返還期間が長いほど効果は積み上がります。
投資の期待リターンとの比べ方
一方で、NISAなどで投資をした場合の期待リターンは、長期では年に数%程度と想定する人が多いものの、保証はありません。短期では、マイナスになる年も普通にあります。
つまり、比べているのは次の2つです。
- 繰り上げ返還:利回りは低めでも、確実に得られる
- 投資:期待値は上でも、ブレる。マイナスの年もある
「期待値で上回りそうだから投資」と単純に決められないのは、この「確実さ」の差があるからです。利率が高いほど、確実な利回りとしての繰り上げ返還の魅力は大きくなります。
60万円で、具体的に比べてみる
イメージしやすいように、手元に60万円の余裕資金があるとして、利率2.423%の第二種奨学金を持っている人が、1年間でどうなるかを比べてみます(概算で、手数料や税金は考えていません)。
| 選択 | 1年後の差 |
|---|---|
| 繰り上げ返還する | 利息が約1.45万円減る(確実) |
| 投資して、年−10%だった場合 | 約6万円の評価損 |
| 投資して、年0%だった場合 | ±0円 |
| 投資して、年+3%だった場合 | 約1.8万円の増加 |
| 投資して、年+7%だった場合 | 約4.2万円の増加 |
投資が上振れた時の差は大きい一方で、下振れた時の痛みも大きいことが分かります。長期で続ければ、年ごとのブレはならされていくと考えられていますが、「奨学金の返還期間の中で、値下がりの年が重なるかもしれない」ことも、頭に入れておくべきです。確実な1.45万円をとるか、ブレる期待値をとるか。その人のリスク許容度で決まる部分でもあります。
【関連記事】新NISAって結局何がお得なの?超基本のき (NISAって結局何がお得なの?超基本のき)
利率別の考え方の目安
ここまでを踏まえて、利率別にざっくりした目安を整理します。あくまで考え方の目安で、「こうすべき」という意味ではありません。
| 奨学金の状況 | 考え方の目安 |
|---|---|
| 第一種(無利子) | 繰り上げ返還で利息は減らない。返還は予定どおり進めて、手元の現金を優先して使い道を考える |
| 第二種で、利率が1%未満 | 利息の負担が小さい。投資や貯金を優先する考え方も取りやすい |
| 第二種で、1%台〜2%前後 | ケースバイケース。貯金と投資を確保したうえで、余力で一部を繰り上げる折衷案も選びやすい |
| 第二種で、2%台後半〜3%近い | 確実な利回りとして大きい。繰り上げ返還を優先する選択にも合理性がある |
特に第一種は、無利子なので、繰り上げ返還しても利息は減りません。むしろ、手元の現金を厚くしておく方がメリットになりやすいです。ただし、返還が進んで気持ちが楽になるという心理面の価値はあるので、そこは人それぞれです。
数字だけでは決まらない部分もある
ここまで利回りで比べてきましたが、お金の判断には気持ちの面も無視できません。「借金が残っているのが気持ち悪くて、仕事にも集中できない」という人にとっては、繰り上げ返還で残高が減ること自体に大きな価値があります。逆に、「投資が続かなくなるくらいなら、返還は予定どおりで構わない」という人もいるでしょう。
大切なのは、数字で比べたうえで、自分が長く続けられる方を選ぶことです。途中で「やっぱり違った」と思ったら、配分を変えれば済みます。繰り上げ返還も、積立の設定も、いつでも見直せるからです。
どんな場合でも、先に決めておくこと
利率に関わらず、繰り上げ返還と投資のどちらを選ぶ前に、ここだけは先に済ませてほしいことが2つあります。
①緊急予備資金を先に作る
繰り上げ返還したお金は、基本的に手元に戻ってきません。一方で、生活には急な出費がつきものです。病気やケガ、失業、冠婚葬祭などで、現金が足りなくなった時に、「繰り上げ返還したばかりでお金がない」となると本末転倒です。
目安は、生活費の3〜6か月分を、すぐ引き出せる口座に置いておくことです。この緊急予備資金を確保してから、繰り上げ返還や投資に回すお金を考えましょう。
【関連記事】緊急予備資金っていくら必要?調べてみた (緊急予備資金っていくら必要?調べてみた)
②延滞だけはしない
もう一つは、毎月の返還を遅らせないことです。JASSOによると、返還が3か月以上延滞すると、個人信用情報機関に登録される対象になります。登録されると、クレジットカードやスマホの分割払いが使えなくなったり、住宅ローンなどが組めなくなったりする場合があるとされています。
投資に回したお金のせいで、毎月の返還が苦しくなっては意味がありません。返還額は、投資より先に確保するという順番にしておくと安全です。
毎月の返還が苦しいときの制度
「そもそも返還だけで精一杯で、投資どころではない」という人もいると思います。その場合は、延滞してしまう前に、JASSOの制度を使うことを考えましょう。
- 減額返還:経済的な困難や病気、災害などで返還が難しい場合に、毎月の返還額を2分の1、3分の1、4分の1、3分の2に減らせる制度。その分、返還期間が延びる。願い出と審査が必要。第二種では、利息が増えることはない
- 返還期限猶予:返還期限そのものを先延ばしにする制度。願い出と審査が必要。第二種では、猶予の期間は無利息
- 所得連動返還方式:平成29年度以降に第一種を借りた人が、願い出で、定額返還方式から切り替えられる制度。審査がある
猶予や減額は「返さなくていい」という制度ではなく、返還の時期や金額を調整する仕組みです。ただ、延滞して信用情報に傷がつくより、はるかに安全です。苦しいと思ったら、延滞する前にJASSOに相談するのが基本です。
勤務先の「代理返還」制度を確認する
意外と知られていないのが、会社が奨学金の返還を支援してくれる「代理返還」制度です。企業が、従業員の奨学金の返還残額の一部または全額を、従業員に代わってJASSOに直接送金する仕組みです。
報道によると、この制度を導入した企業は、2022年3月末の320社から、2026年3月末には4,852社に増えています。支援の期間は、支援開始から12か月以内とされていて、1年を過ぎた対象者は再登録が必要です。企業がJASSOに直接送金する場合、従業員の給与として課税されない扱いになるとされていますが、税金や社会保険料の詳細は、勤務先の担当部署や税務署で確認してください。
また、企業の支援額を補助している地方自治体もあります。自分の勤務先が導入しているか、就業規則や福利厚生の案内を一度見てみる価値はあります。
繰り上げ返還のやり方と、注意点
繰り上げ返還を選ぶ場合の基本です。
- いつでもできる:貸与が終わって奨学金の身分が終了したあとは、いつでも繰り上げ返還ができる
- 申込み方法:繰上返還の申込み用紙、またはスカラネット・パーソナルから申し込む
- 一部でもOK:一部繰り上げの場合、繰り上げた分だけ返還期間が短くなる。翌月からの返還額は、通常どおり
- 利息の扱い:第二種では、返還期日が来ていない分には、利息がかからない
返還額が変わらず、期間だけが短くなる点は、覚えておきましょう。「月々の負担が軽くなる」わけではないので、家計の余裕を作りたい人は注意が必要です。
また、将来、住宅ローンなどを組む場合、奨学金の返済も他の借入と同じように、返済の負担として見られるのが一般的です。残高を減らしておくことが、先々の選択肢を広げる面もあります。
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4つのタイプ別・考え方の例
最後に、タイプ別の例を挙げます。実際の判断では、利率や年収、貯金の額などで変わります。あくまで考え方の例として見てください。
タイプA:第一種(無利子)で、貯金が少ない人
利息がつかないので、返還は予定どおり続けます。まずは緊急予備資金を作り、そのあとで、NISAなどの積立を少額から始める流れが自然です。
タイプB:第二種(1%台)で、緊急予備資金がある人
投資と繰り上げ返還のどちらも選べます。毎月の余剰を半分ずつ振り分ける、毎月はNISAの積立、ボーナスで繰り上げ返還、といった折衷案も取りやすいタイプです。
タイプC:第二種(固定2%台)で、投資は未経験の人
確実な利回りとして、繰り上げ返還の価値が大きめです。投資の経験が少なく、値動きにまだ慣れていないなら、先に繰り上げ返還を進める選択にも合理性があります。
タイプD:返還が苦しく、貯金も増えない人
投資や繰り上げ返還の前に、まず減額返還や猶予の相談、そして家計の見直しが先です。固定費を削って余剰を作る方が、効果が大きいことも多いです。
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よくある失敗パターン
- 自分の利率を確認せず、「奨学金=悪いもの」と決めつけて、無利子の第一種を急いで繰り上げてしまう
- 手元の現金を全部繰り上げ返還に回して、急な出費に対応できなくなる
- 投資の損失が出た時に、毎月の返還が苦しくなる
- 利率が上がる前の古い情報を見て、金利が高いと思い込んでいる
- 苦しいのに誰にも相談せず、延滞してしまう
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よくある質問
Q1. 奨学金があるうちは、投資はしない方がいいですか? A. 一概には言えません。利率が低かったり無利子だったりする場合は、緊急予備資金を確保したうえで、少額から積立を始める人も多いです。利率が高めで、投資の値動きが不安なら、繰り上げ返還を優先する選択もあります。
Q2. 一部だけ繰り上げ返還すると、毎月の返還額は減りますか? A. 減りません。繰り上げた分だけ返還期間が短くなり、翌月からの返還額は通常どおりです。
Q3. 奨学金の返還額は、税金の控除の対象になりますか? A. 返還額そのものを、所得税や住民税から差し引ける仕組みは基本的にありません(住宅ローン控除のような専用の控除はない)。税金面の得を理由に、返還の進め方を決めることはできないので、利率と手元の現金で判断するのが基本です。なお、勤務先が代理返還制度を使っている場合は、会社の支援分の扱いが別になるので、担当部署に確認してください。
今日やることは3つだけ
読み終わったら、まずは次の3つだけ済ませましょう。どれも30分もかかりません。
- スカラネット・パーソナルで、残高・利率・方式を確認して、メモに残す
- 緊急予備資金が、生活費の何か月分あるかを計算する(足りなければ、先取り貯金の金額を決め直す)
- 毎月の余剰を、貯金・投資・繰り上げ返還にどう分けるか、ざっくりでいいので割合を決める
3番目は、最初から完璧に決める必要はありません。たとえば「余剰が出たら、まず半分を緊急予備資金、残りを投資と繰り上げで折半」のようにルールを決めておくと、迷いが減ります。半年か1年ごとに、利率や貯金の状況を見て、割合を見直していけば大丈夫です。
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まとめ
- まず、自分の奨学金の種類・利率・方式・残高を確認する
- 第二種の繰り上げ返還は、借りている利率と同じ利回りが確実に得られるのと同じ効果がある
- 第一種(無利子)は、繰り上げ返還で利息は減らない
- 2026年3月貸与終了の第二種は、固定2.423%、見直し1.600%。ただし、利率は時期で違う
- 緊急予備資金を先に作り、延滞だけはしない
- 苦しい時は、減額返還や猶予、勤務先の代理返還制度も確認する
「奨学金があるから投資できない」と諦める必要も、「早く返さなきゃ」と焦る必要もありません。自分の条件を数字で確認して、緊急予備資金→毎月の返還→投資と繰り上げ返還の配分、の順で決める。この流れさえ守れば、どの選択も間違いではありません。
※本記事は2026年10月17日時点の公開情報をもとにした一般的な整理であり、特定の行動を推奨するものではありません。奨学金の利率や制度の詳細は、日本学生支援機構(JASSO)の公式サイトや、スカラネット・パーソナルでご確認ください。投資には元本割れのリスクがあり、最終的な判断はご自身でお願いします。

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